損害賠償命令制度(付帯私訴)
従来,刑事裁判と民事裁判は分かれており,加害者に対して民事的に損害賠償を求めるときには,別に民事訴訟を提起しなければなりませんでした。
これでは費用や負担が大きいです。そこで現在では,刑事裁判の中で損害賠償を求める手続きが設けられました。同じ裁判所で引き続き実施されるため,迅速な解決が期待できます。
付帯私訴(損害賠償命令制度)の詳細について
概要
損害賠償命令制度とは,刑事事件を担当した裁判所が,有罪の言渡しをした後,引き続き損害賠償請求についての審理も行い,加害者に損害の賠償を命じることができるという制度。
おおむね4回以内の審理で結論を出すことになっているため,通常の民事裁判よりも簡易・迅速な解決が期待できる。
対象犯罪等
以下の犯罪の刑事事件の被害者本人,一般承継人(相続人)が利用することができる(刑訴法17条1項)。
- 故意の犯罪行為により人を死傷させた罪
- 強制わいせつ,レイプ(強姦)などの罪
- 逮捕及び監禁の罪
- 略取,誘拐,人身売買の罪
- 上記の犯罪行為を含む他の犯罪
- 上記の未遂罪
・過失犯(業務上過失致死傷,自動車運転過失致死傷)は対象とならない。
・上記被害者等であれば,刑事裁判への参加の有無を問わず,損害賠償命令を申し立てることができる。
・申立書には,申立人(及び法定代理人)と被告人の氏名,請求の趣旨,訴因(審理の対象となっている起訴事実),請求金額等を記載する(法17条2項3項)。
・申立費用は,申立手数料2,000円(定額)+予納郵券分となる(法36条1項)。
手続きの流れ
刑事裁判 ※第1審,地裁のみ
- 申立ては,起訴後弁論手続が終了するまでに行う。
- 無罪判決が出た場合は,申立ては却下されるが,この場合でも,改めて通常の民事訴訟を提起することはできる。
- 有罪判決の場合は,刑事裁判を担当した裁判官が,同じ刑事裁判記録に基づいて引き続き損害賠償命令についての審理を行うので,新たに民事裁判を起こすことに比べ,被害者の立証の負担が軽減される。
損害賠償命令に関する手続
- 審理は原則4回まで(法24条3項)
- 審理の結果の「決定」は民事裁判の確定判決と同一の効力がある。
- 以下の場合は民事裁判となる(ただし,通常の民事裁判とは異なり,新たに民事裁判の「訴えの提起」をする必要はない)。新たに民事裁判を起こすことに比べ,被害者の立証の負担が軽減される。
- 決定に対し異議申立てがなされた場合(法27条1項)
- 4回以内の審理で終結しない見込みのとき,申立人の申立て又は裁判所の職権により(法32条1項)
- 申立人(被害者)の申立てがあった場合(法32条2項1号)
- 相手方(加害者)が民事訴訟手続への移行の申立てをしたとき,申立人が同意した場合(法32条2項2号)