児童買春で逮捕されたら?弁護士が解説
洋の東西を問わず,また時代を超えて,犯罪の一類型として幼児や子供を狙った性犯罪があります。幼児等に対して性愛や性的嗜好を有し,強い空想から衝動的な行動を起こすことを小児性愛ないし幼児性愛(ペドフェリア)と呼びますが,必ずしも医学的見地から性嗜好障害と言えないまでも,そのような傾向をもつものが犯罪行為に至ることがあります。この類型の犯罪は,繰り返し行う反復性,常習性があり,被害者が子供であることから親に発覚することを恐れて誘拐へ,最悪の場合には殺人へとエスカレートする潜在的危険性を有します。
我が国の児童買春に対する法規制は,小児や幼児にとどまらず,18歳未満の者に対する性的行為を処罰の対象にしています。
このコラムでは,児童買春に関する法律要件や処罰,そして示談を含む弁護活動について代表弁護士・中村勉が解説していきます。
児童買春とはどのような罪か
「児童買春」とは,「児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」(児童買春・児童ポルノ禁止法。以下,「法」という。)に定められた行為で,刑事処罰の対象となります。この法律の保護法益は,児童の権利及び将来にわたって児童に対する性的搾取ないし性的虐待を防止する社会的法益と考えられています(法第1条,東京高裁平成29年1月24日判決)。
この法律にいう「児童買春」とは,児童自身,児童に対する性交等の周旋をした者若しくは児童の保護者等に対償を供与し,又はその供与の約束をして,その児童に対し,「性交等」をすることを指しています(法第2条2項)。したがって,対償の供与もその約束もしないで性交等をした場合には,この法律には該当しません。対償の供与なく,18歳未満と性交又は性交類似行為を行った場合には,青少年育成条例違反として処罰され得ます。
「児童」とは,18歳に満たない者をいい(法第2条),18歳未満の男女いずれも含まれます。同性に対する行為についても,対象が「児童」である限り児童買春に該当します。例えば,男性が男児に対償を供与するなどして性交等を行った場合です。
「性交等」とは,性交・性交類似行為(手淫・口淫行為等,性交と同視し得る態様での性的な行為)だけでなく,自己の性的好奇心を満たす目的で児童の性器等(性器,肛門又は乳首)を触り,若しくは児童に自己の性器等を触らせることを含みます。
また,児童買春の成立には児童の合意がないこと(児童に対する暴行・脅迫等)は要件とされていませんので,児童の「合意」があっても成立し得ます。
例えば,児童がSNSで「パパ活」の募集をかけており,その誘いに乗り合意の上で行為に及んだ場合であっても,児童買春に該当します。ですから,そのような児童の誘いに乗ることは禁物です。
児童買春の量刑
児童買春の刑罰は,5年以下の懲役又は300万円以下の罰金(法第4条)と定められており,相当に重い犯罪と言えます。
児童が18歳未満であることを知らなかった場合
児童買春は,相手が18歳未満であることを知っていた場合に成立しますので,例えば相手が年齢を偽るなどして18歳未満であることを知らなかった場合には児童買春は成立しません。
ただ,このような認識は,未必の故意で足りるとされており,つまり,正確には18歳未満とは知らなくても「もしかしたら18歳未満かもしれない,まあいいや」という場合でも認識ありとされるのです。このような認識は四周の状況から総合的に判断されます。
ですから,見た目などから18歳未満かもしれないと思った場合には児童買春が成立する可能性があります。年齢を聞いていなければ大丈夫というわけではありませんし,「会員サイトに18歳以上との記載があった」とか,「18歳未満は使えないアプリで知り合った」,「18歳だと聞いていた」というだけで通用しないことも多いのです。
対価が食事やプレゼントだった場合
児童買春(法第4条)とは,上記のとおり,児童自身,児童に対する性交等の周旋をした者若しくは児童の保護者に対償を供与し,又はその供与の約束をして,当該児童と性交等をすることを指しますか。
「対償」とは,当該児童と性交等をする見返りとしての経済的利益を指しますから,金銭でなく,食事やプレゼントの場合でもそれが経済的利益に当たる以上,児童買春が成立し得ます。
児童買春で逮捕されるケース
児童買春は,逮捕せずに在宅のまま捜査されることが多いですが,場合によっては逮捕されることもあります。どのような場合に逮捕されるかは,一概には言えませんが,対象児童の年齢や人数,児童買春に至る経緯,対償の多寡・内容,性交等の内容・状況・回数,周旋者・児童の保護者等の関与の有無,行為者の供述状況等のほか,逃亡のおそれ,行為者の生活状況,その他の一般的事情が総合的に考慮され,逮捕されるか否か捜査機関が決定します。
逮捕に至る時期ですが,児童買春を行ったすぐ後でなくとも,数日後や極端に言うと数年後というケースもあり得ます。複数の児童を相手に買春行為を繰り返したような事案は逮捕される可能性が高いです。
児童買春で逮捕された場合の流れ
逮捕された場合には,その翌日又は翌々日に検察庁に送致され,検察官の取調べ(弁解録取)を受けます。
その際,検察官は,被疑者を10日間留置する勾留を裁判所に請求するかどうかを決定します。検察官が勾留請求しない場合は即日釈放されますが,検察官が勾留請求すると,被疑者はその日か翌日に裁判所に行き,裁判官の勾留質問を受けます。裁判官が勾留決定をした場合は,検察官の勾留請求日から数えて10日間,留置施設に留置されます。このとき,裁判官が勾留請求を却下した場合には,被疑者は釈放されます。
検察官は,最大20日間の勾留期間のうちに,被疑者を起訴するか不起訴にするかを決定しなければならず,その決定ができないときは被疑者を釈放しなければなりません。
このように,逮捕されるとそれだけで長期にわたって勾留される可能性があります。勾留を避け,又は勾留されたとしてもできるだけ速やかに身体拘束を解きたい場合には,弁護士が身柄解放に向けた活動を行うことが必要です。
児童買春における示談
児童買春における示談と,被害者が成人の場合における示談には効果に差がありますので注意しなければなりません。
例えば成人の性犯罪被害者と示談が成立した場合は不起訴になる可能性が高いといえますが,児童買春の場合は示談が成立したからといって不起訴になる可能性が高いとはいえません。これは,前述のとおり,児童買春・児童ポルノ処罰法の保護法益には,児童の個人の権利のみならず,将来にわたり児童に対する性的搾取ないし性的虐待を防止するという児童一般のための社会的法益も含まれていると解されているからです。
すなわち,被害者でとの間で示談が成立した場合に,当該児童個人の権利との関係では手当てがされていると言えても,その示談の事実のみでは,将来にわたり社会一般の児童に対する性的搾取ないし性的虐待を防止することまではできないとして,社会的法益の観点から,処罰すべきと判断する検察官もいるのです。
しかし,だからといって示談の必要がないとはいえません。
児童買春の場合,被害者との間で示談が成立したとしても,それをもって不起訴になる可能性が高いとまではいえませんが,逆に,示談が成立していない状態で,不起訴になる可能性はほぼなく,検事が起訴・不起訴を決める際に極めて重要なポイントとなることは間違いないといえます。ですので,認め事件において,不起訴の可能性を少しでも上げたいというのであれば,示談は必要不可欠です。
児童買春で逮捕されたら~弁護士をつけるメリット~
児童買春を複数回敢行している等の場合,逮捕され,さらに勾留満期日に起訴される可能性があります。身柄解放の観点からも,早期の示談成立を目指して弁護士への依頼は急いだ方がよいでしょう。
児童買春の被害者は18歳未満であるため,多くの場合は被害者の保護者との間で示談交渉をしていくことになります。警察や検察が,被疑者やその家族に対して,被害者の情報を教えてくれることはほとんどなく,被害者も被疑者とは直接関わることを拒否するのがほとんどなので,示談交渉を進めるためには,被疑者等の代理人である弁護士の存在が必須です。弁護士を立てなければ,示談交渉の土俵にすら立てないのです。
もちろん,弁護士を立てからと言って,必ず示談ができるというわけではありませんが,法律のエキスパートに任せることで,ご自身やご家族の安心に代わることは間違いないでしょう。
児童買春では,初犯だとしても,示談の成否に関係なく罰金となる可能性が一般的に高いですが,前述したとおり,示談なしでの不起訴はほとんど望めません。また,児童買春や青少年育成条例違反等同様の前科がある場合には,略式罰金とはならず,公判請求される可能性もあります。
略式罰金とは,略式の裁判手続で,書面の手続のみで罰金が科されるものです。これに対して公判とは,公開の法廷で行われる正式な裁判手続きのことをいいます。ですので,起訴が回避できない場合であっても,事件が人に知られることを防ぐためには,できる限り公判請求ではなく略式罰金にしてもらいたいものです。
このような場合にもやはり示談の成否は大きな意味を持ってきますので,弁護士に依頼するのがよいでしょう。
まとめ
児童買春は,相当な重罪であり,逮捕からの勾留,公判請求,実刑等のリスクも相当高いものがあります。その上,当該児童だけでなく児童一般の権利擁護の観点もあることにかんがみると,簡単に不起訴や罰金が狙える事案ではありません。児童買春で逮捕された場合や,大切な方が逮捕されてしまった場合は,一刻も早く弁護士にご相談ください。
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